こかむもさん「ぬるめた」1巻と神林長平

みなさん読みましたか。こかむもさん「ぬるめた」1巻。

新進気鋭の次世代作家こかむもさんによる、「きらら4コマ」の新たなる境地。
新時代の幕開けとも称される本作。

女子高生と人造人間女子高生がわちゃわちゃする非日常的日常系4コマ。
それがぬるめた。

女子高生たちが重油を飲んだり原因不明の発光現象を起こしたり、モツ鍋を食べたりするのです。
これぞ日常系。

キャラクタのテンションの上下動が激しくわちゃわちゃと楽しい作品。

 

そんな女子高生たちの一人、鴉越咲樹菜(あごしさきな、以下さきな)は読書が好きな無愛想女子高生。彼女が読んでいる本は実在するSF小説で、「戦闘妖精・雪風」などで有名なSF小説家、神林長平作品に偏っています。

今回はその本について取り上げようと思います。

 

1話 神林長平「あなたの魂に安らぎあれ」 

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「ぬるめた」1巻11P

火星シリーズ1作目。1983年の作品です。

画像からは全然タイトルが読めないですね。
実際、電子書籍版で画面をいくら拡大しても文字が潰れて読めませんでした。
紙のコミックスでは表紙の「神林」と、頭の「あ」がかろうじて読み解ける程度でした。
紙の雑誌でようやく背表紙に「神林長平」がハッキリと、タイトルが恐らくコレと一致するだろう、というところまで判別が可能になります。

電子書籍の解像度なんとかならんもんか。

あなたの魂に安らぎあれ

あなたの魂に安らぎあれ

 

 

2話 神林長平「絞首台の黙示録」

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「ぬるめた」1巻18P

こちらははっきりタイトルが判別できますね。

絞首台の黙示録 (早川書房)

絞首台の黙示録 (早川書房)

 

 

4話  不明

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「ぬるめた」1巻35P

神林長平作品に「完璧な涙」という作品がありますが、上記画像からは「完全」とあるので違うようです。

完璧な涙

完璧な涙

 

 

6話 神林長平帝王の殻

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「ぬるめた」1巻53P

火星シリーズ3部作の2作目。

帝王の殻

帝王の殻

 

 

同6話 神林長平「ぼくらは都市を愛していた」

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「ぬるめた」1巻55P

東日本大震災から着想を得て書かれた作品らしく、情報震というデジタルデータを狂わす災害と思われる現象が頻発し世界は荒廃、原因解明に務める日本情報軍の綾田ミウの物語と、上層部の指示により体間通信が可能にさせられた公安刑事、綾田カイムの奇妙な殺人事件の物語。

まったく異なるような2つの物語がどう関わってくるのか、とても先の展開が気になる作品。

さきなはこの作品を読了し、余韻に浸って涙を流していましたが、はて、これってそういうタイプの作品だったかな?

ぼくらは都市を愛していた (朝日文庫)

ぼくらは都市を愛していた (朝日文庫)

 

 

13話 神林長平レームダックの村」

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「ぬるめた」1巻113P

この「やっちゃった」は、フィリップ・K・ディックアンドロイドは電気羊の夢を見るか?」のネタバレをしてしまったことによる「やっちゃった」。

レームダックの村

レームダックの村

 

 

同人誌版 神林長平オーバーロードの街」

こかむもさんが「ぬるめた」連載前にコミティアで発表されていた、「ぬるめたアポカリプス」という作品があります。

booth.pm

同一のキャラクタが登場しますが、必ずしも同一と明言されたわけではありません。
が、劇中でもさきなは神林長平作品を読んでいます。

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「ぬるめたアポカリプス」56P

ハードカバーは痛い。

オーバーロードの街

オーバーロードの街

 

ちなみに同人誌版のさきなは、きらら版のさきなとは異なりミステリ好き。同人誌劇中でも宮部みゆき「過ぎ去りし王国の城」を読むエピソードがある。SFも読むが、ちあきの影響だそう。

過ぎ去りし王国の城 (角川文庫)

過ぎ去りし王国の城 (角川文庫)

 

 

最後に

神林長平作品でよく題材として上がるのが「集合的意識」です。
同一の種が主体となる個体を持たず、集合的な意識を共有する、というもの。
いま集合的無意識を、」という短編集もあります。ベテランSF作家の前に「ぼくは伊藤計劃だ・・・」と突然現れる所から始まる表題作は、「伊藤計劃以後」と言われるSF界へのアンサーソング

いま集合的無意識を、 (ハヤカワ文庫JA)

いま集合的無意識を、 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:神林 長平
  • 発売日: 2012/03/09
  • メディア: 文庫
 

 

「ぬるめた」でも2話で、分裂・増殖したくるみが集合的意識を獲得していました。
その集合的意識下でやるのがダンスってwww

 

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「ぬるめた」1巻21P

かなり話がズレますが、分裂状態から一個の個体に戻った際に、くるみは「さっきまで集合体だったから個で存在するということに耐えられなくなりそう」と表現しましたが、これって「スケーラブルな冗長構成だったのがサーバ1台構成になっちゃってとっても不安」と感じるインフラ担当みたいな感じですよね。きっと。
閑話休題

 

さてここまでで、こかむもさんがどれだけ神林長平作品を好きか、よく判ったのではないかと思います。いえ直接そうお聞きしたわけではないのですが。

神林長平という部分を抜きにしても、分裂回のようにSF好きに刺さるエピソードが満載です。私は電気羊回が好き。
以前私はどこかの文章で「4コマ好きはSF好き」と書いたことがあるんですが、SF好きなら4コマも好きでしょう(暴論)。

こかむもさん「ぬるめた」。オススメです。

 

ちなみに私は、神林長平作品は「戦闘妖精・雪風」シリーズくらいしか読んだことはありませんでした。が、ぬるめた1巻を読んで、「ぼくらは都市を愛していた」を読みたくなり電子書籍で衝動買い。火星シリーズも読んでみようという気持ちになっています。

みなさんも神林長平作品、おひとつ如何ですか?

戦闘妖精・雪風(改)

戦闘妖精・雪風(改)

 

 

余談

「ぬるめた」1巻1話と6話でさきなが読んでいた「あなたの魂に安らぎあれ」「帝王の殻」は火星シリーズ3部作。たつき監督による「けものフレンズ」がこの作品のオマージュなのではないか、という考察がありました。

こちらはこかむもさんによるそのファンアート。

 

 でっていう。